日本一の生産を誇る刃物の産地として、世界に名を馳せる関市。
その歴史は鎌倉時代にまでさかのぼり、最盛期には300人以上の刀匠を有する刀の産地として栄えました。
江戸時代以降はその技術を家庭用刃物、工業用刃物ヘと生かし、現在も約100社の刃物メーカーが軒を寄せ合っています。
工業用刃物メーカーのエドランド工業は、これまで培ってきた技術や経験をサービス化し情報発信することで、新たな顧客を獲得し、売り上げアップを図ることに成功しています。
刃物の町・関市に1919年に誕生したエドランド工業は、日本刀の刀匠“兼景(かねかげ)”の流れを受け継ぐ、伝統ある刃物メーカー。
主にミシンにつける糸を切る刃物や野菜の千切りをするフードカッターの刃など、22,000種類以上の工業用刃物を大手機械メーカー向けに製造している。
機械メーカーの細かな要望に対応するため、材料の選定から形状加工、研磨などすべての行程を自社で一貫生産。
メーカー向けの大量生産に加え、最低1個から最短2週間で対応できる小回りの良さを生かし、試作品等のオーダーメイド刃物の提案や製作も行っている。
「何十年もの間、大手機械メーカーさんと良いお付き合いをさせていただいていますが、長い目で見ると少しずつ減少傾向にあります。
そうした状況を打開するために、 小ロットから受注するオーダーメイド刃物に可能性を感じて、そこをきっかけに営業していこうと動き出していました」と久保有希取締役は語る。
市役所の方の紹介でSeki-Bizを訪れた久保さんは「何かを求めていった訳ではなく、それほど期待はしていなかった」と正直に明かす。
「現状をSeki-Bizに話したところ、『つまり、お客さまの開発パートナーになりたいってことですよね』って言われたんです。
自分が考えてたことを、一言でスパンと表現してもらったというか、『それです、それそれ!』という感じでしたね。
Seki-Bizはこちらの考えを汲み取るのが上手く、自分のやりたいことをうまく方向付けしてもらえました」
Seki-Bizは、エドランド工業の22,000種類を超える製作実績に着目。
同社は工業刃物のエキスパートであり、依頼者が抱えている課題に対して、依頼者より最善の提案ができることが強みであると見出した。
言われた通りに製造するのではなく、課題に対して提案し、製造することをサービス化しましょうと提案。
「これがサービスになるんだと驚きましたね。
“刃物のお悩みベストアンサー”という名前もSeki-Bizで話をしながら決めました。
僕は“最適化”という言葉を使っていたんですが、それを松浦さんに“ベストアンサー”という言葉に置き換えてもらいました」
2016年の10月よりサービスを開始。中部経済新聞に掲載されたのをきっかけに、日刊工業新聞、日本経済新聞、板紙段ボール新聞で続々と紹介され、12月頃から徐々に問い合わせが届くようになる。
「これほど多くのお問い合わせがあるとは予想していませんでした。
『みんな、刃物に困っていたんだ』という印象が強かったです。
こんなに困っている人がいるという現状を知ることができたのは一番の収穫でしたね。
弊社は新規開拓の営業ノウハウも人員もない状況でした。
お客さまからお問い合わせをいただくこのサービスは、本当に良い営業マンになってくれています」
“刃物のお悩みベストアンサー”には、1年間で約600件のお悩みが届いた。
100件を超える新規受注につながったものの、久保さんは「反響が大きくてとてもありがたいのですが、実は思いがけないニーズが数多く寄せられました」と笑う。
例えばフードカッターを作っている機械メーカーに訴求することを想定していたが、実際に問い合わせが届いたのは、給食センターなどフードカッターを実際に使っている機械メーカーのユーザーからだったのだ。
そのギャップを埋めて、「当初の狙い通り、機械メーカーの開発パートナーになるために」、2018年4月からは”刃物de機械イノベーション”という新サービスを開始する。
この1年間で寄せられたお悩み事例は、機械メーカーにとっては貴重なユーザーの声。
新サービスでは、それらの声を機械メーカーにフィードバックし、開発パートナーとしてオリジナル刃物を共同開発する。
「長年機械メーカーの刃物を作ってきた経験を生かしてお悩みを解決。
さらに集まったお悩み事例を、機械メーカーの刃物を改良するために生かす。
最初から狙っていた訳ではないですが、結果的にいい循環が生まれましたね」
「Seki-Bizは本当に話しやすいですね。
相談に行くようになってから、色々なことが進むようになりました。
これまでは、例えばホームページを少し変えたいなと思っても、なかなか着手できず、1年くらいそのままということもありました。
今は『先月これをやると約束してしまったので、次に行くまでに対応しないと』と仕事がはかどっています」
長年やりたいと考えていた、お客さまに製品を送った後に、あらかじめ決めたスケジュールに沿ってメールを送る”ステップメール“の仕組みも新たに整えた。
「お客さまへのアフターフォローのために、『ステップメールの仕組みを作ろうと思ってるんです』と話をしたところ、『面白いですね。
研ぎ直しの提案も一緒にしてみたらどうですか』というプラスのアイデアをいただきました」
他にも、求人など日常の悩みも気軽に相談している。
「雑談の中で、『この1年くらい人手不足なんですよね』と話したところ、Seki-Bizの労務相談会を紹介してもらいました」
相談会を受けて求人票を書き直してハローワークに持っていったところ、すぐに応募者が増えたそうだ。
「今回の”刃物de機械イノベーション”のサービスも、Seki-Bizがいなければ仕上がらなかったんじゃないかというくらい頼りました。
情報を全て把握してもらっているので、助かりますね」
お客さまの開発パートナーを目指す久保さんにとって、Seki-Bizはなくてはならない“パートナー”になりつつある。
ライター:山田 智子